チャドで働く国連機関契約職員の日記

チャドの田舎で国連機関の期間契約職員として働くことになった日本人の日記です。ブログでの記述は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません

国連機関の洗礼とドラクエについて

先週金曜日に首都のンジャメナから、田舎の現場事務所に到着。

実はンジャメナからの移動前日に、事務所での僕のポジションには前任者がいて、その後任として僕が入るということが判明する。その前任の仕事は、僕が採用された理由・こちらで取り組むことになっていたと聞いていた仕事とは全然違う。どれくらい違うかというと、民間企業でいうと、財務部と、お客様サポートセンターくらい違う。

ただでさえ新しい組織・新しい分野の仕事なのに、これで、かろうじて予習・予想していたこともきれいさっぱりと裏切られて、その時点で、何をどうするのか全く分からないという状態になった。

そしてさらなる問題は、前任者と会う機会は、ンジャメナに移動する前日に、全然知識が無い状態で1時間、引き継ぎ書もなく、ホテルのロビーでしゃべっておしまいという極めてさっぱりしたものだったということ。その前任は休暇で田舎から首都のンジャメナに出てきたのだけれど、そのまま事務所には帰らずに、母国に帰る。なので、もう二度と会えない。

それでは、僕を採用した事務所の所長に聞けばいいか、と普通はなるけれども、所長も2週間の休暇で帰ってこない。さらに副所長クラスも出張中で当分いない。

わからないことづくしで、かつほかの組織の調整もしないといけない。できることは、片っ端から事務所内の人間を捕まえて、その担当内容や当地の状況、あと恥ずかしいことに「で、僕って何するんだっけ」と聞いていく。

 

これを僕は、チャドのドラクエ、略してチャドラクエと名づけることにした。

事務所で片っ端から人を捕まえて話を聞いて、何をどうするのかを教えてもらわなければ。

 

上司も前任もいない。同僚はというと、同じ役職の人というのはいなくて、逆になんと、部下がいる。レベル1で、いきなり仲間がいるのは心強いのだけれど、チャドラクエでは部下を管理しないといけない。部下が何をすべきか把握してないのに、部下の指導・管理をするというのは構造的に不可。何を言われても、そういうものか、としか思えないし、言ってくれればまだしも、言ってこない物事について、これも考えないといけないんじゃないの?みたいなことはできない。

さらに外に目を向けると、僕のポジションは、どうやら他の機関とかなりの調整をする必要があるということで、着任早々、いきなり他の機関がも参加するOutlookの会議出席依頼が来て、担当の●●について報告してください、みたいなことがたくさん飛んでくる。特に対外折衝は部下は基本的にはノータッチらしく、レベル1の僕には、厳しすぎる。

準備くらいはしたいと思って部下に、僕が出るべき会議、報告すべき定期的なレポートを教えてくれと聞いても、上司が、どういうミーティングに出てるかなんて、把握してない。会議の依頼が来たところで、とりあえず他の部署や部下にどうしたらいいかを聞きまくって、可能な限り他部署や部下に振って、時には自分が時には突き上げを食らいながら、とりあえず経験値が上がると信じでやっていく。

さて、ドラクエは少なくとも勇者が敵を倒してレベルを上げてラスボスを倒すというのがわかっているけれど、チャドラクエでは、僕が何をすべきかという重要パーツが欠落している。なので、どれだけ聞いても、どうにも構造がつかめない。赴任して初めての週末に、前任者からようやく引き継ぎ書が来たけれども、シンプルなタスクリストで、何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。例えば、1か月に1回、●●のミーティングを主宰する、とあっても、そのミーティング目的、前回の日付、議事録、参加者、みたいなものはまるでない。メールで前任者に聞いてもなかなか帰ってこなかったり、●●に聞けばわかるよ、という返事だったりする(で、●●さんに、聞いてみると、知らないです、と言われる)。おそらく、当地でこのポジションで仕事をしていた人がそれを見れば、ある程度見当がつくのだろうけれど、こちとら全く前提知識がないので、そのままではほぼ使えない。使えない攻略本。

 恐ろしいことに、自分が会議を主催して、他組織を含めたコンセンサス形成をして、グループとしての戦略立案とアクションプランの立案、各組織に資金調達を依頼してそれをフォロー・サポートする、というところまでが僕の役割らしい。自分がやるべきこともわからないのに、ほかの組織の人たちを含めたグループでのディスカッションをリードして、うまくまとめていくことをやらないといけない。そもそも、誰がそのグループにいるのかのリストもない。誰を呼べばいいのかもわからない会議を、どう主宰するんだろう。部下からは、とりあえず前回の会議で使った会議出席依頼のメールアドレスの束が送られてきたので、そこ宛に会議出席依頼を出す。依頼者44名のうち、参加の承認があったのは依頼を出してから2日経過時点で2名。。。

そして、フランス語に大苦戦。フランス語がそれほど得意というわけではないから大変というのもあるけれど、やはり、全体像の中で今何を話しているのかという、コンテキストがわからないと、ほぼ推測も働かないので、余計につらい。ということで、1日が終わると完全にぐったり。

チャドクラエはかなりの疲労を伴う。今日も一日、何にもわからずに終わった、、、というかなり苦しい日々が続き、よくわからない中で出る会議も続き、正直、夜寝て、朝が来るとブルーになるというのが3日間くらい続く。ドラクエは敵を倒すと経験値が上がって確実に成長しているのがわかるけれど、チャドラクエでは、成長しているかどうかもよくわからない。(よくわからない話を聞き続けて、何をしていいのかわからない会議に出続けるのだから、当然そうなる)

ただ、悲観的になることはほぼないのも事実。過去数年間にわたって、会社の経営をしていたり、それをサポートする仕事をしていて思ったけれど、人を切るということはやはりなかなかできないし、こいつ使えねーなーと思っても、ほかに代わる人がいなければ、やっぱり使い続けるしかないし、どうせ使い続けるなら、うまく動いてもらえるようにサポートしよう、というのが組織の意識としては働く。(これが東京都心のナイスなオフィスで、いくらでも人が集まるなら違うかもしれないけれど)。パーティーを組んだら、仲間は基本的には切らずに、レベルアップをしてもらうし。

だから、僕が相当使えなくてもまず切られることは、少なくとも1~2か月はないだろうし、究極的には、これで僕が機能しなくても僕は契約が早く終わるだけで、責任という意味では僕を採用した上司がとることになるから、そういう意味では、僕はとりあえずできることに全力で取り組めば、それでいい。それでだめならしょうがない。

経営者は、全力で取り組もうが何しようが、会社がつぶれたら従業員が路頭に迷うし顧客に迷惑がかかるし、、、ということで、だめならしょうがない、とはいかないので、それと比べれば、はるかに気は楽。それに甘えてはもちろんいけないのだけれど、メンタルをバランスさせるために、しんどくなった時にはこういうことも考える。コントロールできることに集中して、コントロールできないことは、けせらせら。ベストを尽くせば、仮に辞めさせられても、拾ってくれるところはあるだろう、という感覚もある。死んでも教会で生き返るし、という感覚に近い。

そうこうもがいているうちに昨日、働き始めて7営業日目くらいから、ようやく、どうにか今の組織・事務所の仕事の全体像、自分のチームがやるべきこと、自分がやるべきことがタスクレベルで、この辺りを外さなければたぶん大丈夫だろう、というポイントや、このことはとりあえずここに行けばデータがある、というようなことが分かり始める。フランス語で説明を受けまくって質問を受けまくったせいで、フランス語を聞いたり、フランス語で話したりというのは、だいぶ抵抗がなくなってきた(でも、仕事が終わるともうフランス語を聞きたいとは思わないので、日本語に触れてしまう)。レベルアップの実感。

まだ、朝起きると、今日もしんどい一日が始まる、、、とは思うけれども、やっていることに手触り感が出てきた。スライムくらいならやっつけられるようになってきた。もっと経験値を積んで、今いる場所に見合ったレベルにならなければ。