チャドで働く国連機関契約職員の日記

チャドの田舎で国連機関の期間契約職員として働くことになった日本人の日記です。ブログでの記述は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません

チャドの田舎で途方に暮れる

フィールドオフィスにきてから3週間、初めての出張。某国連機関が、当地で活動する各分野の国連機関、NGO、行政機関の関係者を集めて、当地の人道支援ニーズを取りまとめるというワークショップに参加するというもの。

ところでこのワークショップ、開催の2日前まで朝9時開始となっていたのだけれど、急遽、朝8時開始に変更された。車両の手配を同僚に依頼していたら、その同僚から、前泊しないといけないと、出発前日に言われる。今いるオフィスから、県庁所在地までは2時間弱のオフロードをひた走るのだけれど、セキュリティ上の理由で、今は、朝7時より前は移動できない。なので、この変更によって、前泊しないといけなくなったと。

県庁所在地と言っても、田舎である。2階以上の建物は数えるほどしかないし、舗装道路はゼロ。電気は18時間くらいしか来ない。できれば前泊なんて面倒なことは避けたいけれど、セキュリティ上の理由と言われれば、仕方ない。ということで、急遽、前泊のための宿を予約するよう、同僚に依頼。この県庁所在地には、ほとんどホテルはないのだけれども、国連機関が多く活動しているので、国連機関が持つゲストハウスを予約して使うことができるし、そこならネットも使える。出発前日の夜11時に予約メールが送られてきた。

当日、15時半頃出発して、県庁所在地には17時半頃到着。ランドクルーザーで2時間のドライブ。かなりのオフロードなので、楽しいけれど、かなりぐったりと疲れる。ド田舎の町と田舎の県庁所在地の間には、道路はないけれど、轍(わだち)はあるので、そこをひたすら走っていく。轍はかなり深くて、感覚的には、轍というよりも、畑の畝である。これはランクルとかトラックじゃないと無理。

f:id:shigeomisato:20210913072741p:plain

ド田舎と田舎を結ぶ道らしい何か

さて、早く休みたいので、ゲストハウスを予約した国連機関のオフィスに向かう。アドミンのオフィスを訪問して、受付のおばちゃんに、今日から1泊予約しているんだけれど、と名前と組織名を伝えると、「何のこと?」と言われる。

 

 


いやいや。

 

 


受け取ったメールの画面をアドミンの受付に見せると、何やらカタカタとPCをいじり始めて、「あー、なるほど」という感じのおばちゃん。よかった、見つかったのか。

 

 

「予約のリクエストは受けたけど、処理してないんだわ、これ。そもそも、ここのゲストハウスは3日前にはもう一杯だったし。今確認したけれど、やっぱり今夜はいっぱいだよ」

 


そんな。

 

 

今までも、アフリカに限らず途上国でホテルの予約をしていて、行ってみたら予約が入っていない、みたいなことは経験があった。だけれど、これまでは旅行かビジネスかで訪問しているから、それなりの規模の都市とか街であって、宿泊できるところの候補は、それなりにある。

 

 

チャドの田舎に、それは無いのではないか。

 


ワークショップに参加する同僚(彼らは、家族とか友人の家に泊まることになってる)に状況を説明したら、でもまあ、ホテルもあるから、そっちで探してみたら?と軽い反応が返ってくる。


なんだ、あるんじゃないか。田舎とはいえ、県庁所在地だからそれくらいはあるのか、と安心する。

 

ということで、アドミンの受付のおばちゃんにその話をしたら、

 

 

「あー、あそこは、衛生的にちょっとお勧めできないよ」

 

 

この国連機関は、人道支援機関である。世界中のド田舎のフィールドで業務を展開している。ちょっとやそっとの不都合とか不便は、ミジンコほども気にしない。その機関の、この国の事情に慣れきっているチャド人のおばちゃんをして、「衛生的にお勧めできない」というのは、相当のはずである。疲労困憊しているなか、そこに飛び込む勇気はない。

 

他の選択肢はないですかね、とおばちゃんに聞いてみると、

「近くの●●っていう食料品のお店が確か泊まれる部屋を持っていたはずで、そこならまあ大丈夫じゃない?あとはNGOもゲストハウスを持っているところがあるはずだから、あたってみたらどう?」とのご提案。

食料品店が泊まれる部屋を持っているというのがよくわからないし(店員の家族の家に泊まるということ?)、ホテルと言われる宿泊施設が、それよりも衛生的にひどいというのも不可解ではある。ただ、今から駄々をこねて自分の家に帰るには2時間のオフロード引き返さないといけないけれど、セキュリティ的にそれは許されないし、大いなる無駄である。もうこれがチャド流なら、それにしたがうまで。ということで、その食料品店に向かう。

食料品店につくと、お店の前に若者がたむろしていて、同僚と一緒に、その若者たちに話しかけてみる。

 

 

「今夜、泊まりたいんだけれど、部屋ある?」

「うーん、もう一杯なんだ、ごめんね」

 


食料品店にも振られる。

 

 

ということで、NGOのオフィスを回って、ゲストハウスがあるか、空きがあるかを確認することに。

その結果、奇跡的に(と言っていいと思う)、ゲストハウスの空きを見つけることができた。その部屋は、ちゃんと個室だし、エアコンついてるし、蚊帳も張ってある。ネットは入らないけれど、もはや仕事をする気にもなれないので、問題なし。タオルも石鹸もトイレットペーパーもないけれど、必要なものは、市場で買えばいい。所属組織のセキュリティ的に、このゲストハウスがOKなのかどうかはよくわからないけれど、そもそも部屋があること自体が今は奇跡なので、ここで決める。

 

ということで、無事、寝床を確保することに成功。

 

そもそも、この田舎町で、大規模なワークショップをやることになって、かつ開始時間を早くすれば、当然に宿は足りなくなることは主催機関は理解していたはずである(そして主催機関の関係者は無事、僕の予約が通ってなかった国連機関のゲストハウスで快適にお過ごしになられていた)。まあ、しょうがない。

 

国連機関のゲストハウスは、関係者はウェブからの予約もできるし、確認のメールも来るのだけれど、まったくもって油断はならない(ちなみに予約が通っていても、これ以外のメールが来るわけではない)。やはり大事なことは、電話できちんと確認すべき、という当たり前だけれども貴重な教訓をまた一つ得ることができた。あとこういう場所では、NGOのゲストハウスというのが宿泊オプションとしてもありうる、ということも知ること&経験できたので、よかったと思う。