チャドで働く国連機関契約職員の日記

チャドの田舎で国連機関の期間契約職員として働くことになった日本人の日記です。ブログでの記述は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません

単なるコミュニケーションミスと真の対立を見分けること

土曜日の午後、次の月曜日に予定されているワークショップの準備にいそしんでいると、携帯電話が鳴る。電話の主は、以前のワークショップで挨拶をした、国内避難民キャンプの管理者。

僕の仕事の一つは、担当地域内200カ所を超える国内避難民キャンプを管理すること。キャンプの管理というとだいぶざっくりしているけれど、要は、キャンプが順調に運営されて、そこに居住している国内避難民の生活に問題があったらそれを解決すべくその問題の専門家(水とか衛生とか食料とか教育とか)にコンタクトをして、問題解決して、生活の維持・向上を実現すること。僕一人で200カ所を超えるキャンプの管理なんてものは当然不可能なので、パートナーとして動いてくれているNGOがキャンプの現場マネージャーとして現地で起きていることを日々管理してくれている。ただNGOもすべてのキャンプに常に常駐しているわけではなくて、一人で複数のキャンプを担当しているので、目が離れることがある。

今回はまさにそんなタイミングで起きたトラブルの模様。

キャンプの管理者曰く、自分のいないときに、勝手にほかの団体(団体Aとします)がやってきて、国内避難民向けのシェルターを国内避難民向けに供与したとのこと。また、その団体Aが近々やってきて、生活用品の支給にやってくるらしいとのこと。そのキャンプを管理しているNGOはキャンプの管理だけではなく、生活用品の支給もするから、支援がかぶったり、その結果として、本来は配れる人に配れなくなったりしてしまう可能性がある。ということで、そのキャンプ管理者は、団体Aに対して、誰向けにシェルターを配ったのか、誰向けに生活用品を配る予定なのかを知りたいけれど、団体Aが渋っているからどうにかしてほしい、というもの。

話を聞くにつれて、表面的には団体Aから情報を引き出してくれということだけれども、おそらくそれ以上に、自分の管理しているキャンプで、自分の承諾なしに、勝手に支援を行っていることに、腹が立っているんだろいうということもなんとなくわかってきた。

今はこうしてすらすらと書いてるけれど、電話を受けたときは、このNGOのキャンプ管理者は結構エキサイトしていたのと、そもそも僕のフランス語能力が拙いせいもあって、状況を理解するために、かなり聞き返す必要があった。一応理解したつもりだけれども、状況をきちんと理解したいからメールをしてくれと依頼したところ、メールの内容がいまいちロジカルじゃなくて何が問題なのかよくわからない。あとは、僕だけに状況説明のメールを送ってくれ、と依頼をすればよかったのだけれど特にそのような指定をしなかったせいで、団体Aを含めて、当地の国内避難民キャンプを管理している関係者全員をCCに、僕をTOとしたメールが飛んでくるという事態に。

うーん、これは面倒なことになりそうだ、と思っていたら、そのメールを見た団体Aから返信メールが。団体Aからは、(1)シェルターの配布先と生活用品の配布先も共有するけれど、まずは情報公開の請求をしてくれ、(2)もう建設を始めたシェルターは建設を止めることはできない、(3)もう生活用品を配布する先は決めているから、もう変更できない、というこれまたよくわからないけれど、とりあえず関係がよろしく無い状況にあることはわかる。

ということで再度、NGOの現場管理担当者に、団体Aに、シェルターの建設を止めてくれって言ったのか?生活用品の配布先を変えろといったのか?と確認したら、そんなことは無いという。そもそもNGOの現場管理担当者からのメールも、電話での話(の僕の理解)と微妙に食い違うので、再度全て確認しなおし。そうすると、団体Aに対してそういうリクエストはしてないとのこと。だけれど、現場担当NGOのメールからは、その担当者が言いたいことはどう考えても伝わっていないので、団体A側での誤解でこういうやり取りになった模様。

そうこうしているうちに、今度は、そのメールに入っていた別の団体(団体Bとします)から、僕宛に、支援がかぶるなんてことがあったら、ドナーから援助がもらえなくなるからさっさと解決してくれというメールが、これまた全員あての返信メールで飛んでくる。平和だった土曜日の午後が、派手に炎上しつつある。

ということで、とりあえず団体Aの担当者に電話。でも出ない。メールを打ってきたはずだから、オフィスか、家だとしてもラップトップでwifiが入るところにいるはずで、電話が通じないということはおそらくないはず。ということでしつこく電話をし続けて、どうにかつながる。

そこで、まだお会いしたこともないので、初めまして、という挨拶から初めて、団体Aサイドからも話を聞いて状況を確認する。曰く、団体Aがそのキャンプでのニーズを視察した時には、まだ、現場管理NGOの団体を含めてシェルターの支援はしていなかったので、まずはシェルターの支援をしようとしたとのこと。そのNGOがそのキャンプを管理していたかどうかを知っていたのかというのは聞いたけれど、むにゃむにゃと返信して要領を得ない。おそらく、知っていたけれど、面倒だったのか、コンタクトしたけれどつながらなかったのか、無視して突っ走ったのだろうと推察する。が、ここは本質ではないので、とりあえず無視する。

いろいろ話を聞くと、ラッキーなことに、生活用品の配布は当初は近日中に行う予定だったけれど、当該キャンプ周辺のセキュリティが悪化しているから当面延期するということ。これで、時間的な余裕ができるということでほっと胸をなでおろす。団体Aとしては、情報公開は請求をしてもらわないと手続き上どうしようもないので、それはしてほしいけれど、請求してもらえればきちんと処理はするし、情報も共有するということ。

なので、結論としては、現状を踏まえれば大きな問題はなくて、まずは現場担当NGOが情報公開請求をするということ、団体Aからは現場担当NGOに対して、シェルターの配布先と生活用品の配布予定先を共有すること、生活用品の配布をする日が決まったら、現場担当NGOと調整をすること、ということを決めれば話としては済む。ということで、現状認識、現場担当NGOと団体Aの短期的なアクションについて、僕の理解を共有するという形で双方にメールを打ち、それに合意してもらえたら、関係者にその結果を配布する、という形で決着。

さて、ここまで長くなってしまったけれど、今回は、本質的に何か対立があるとか、競合があるとかという話ではなくて、(1)双方のほんのちょっとした認識のずれ、(2)感情のひずみ、(3)情報共有の方法(メールでのクレームを全員にドカンと送る)というところから話が大きくなってしまった。

なので、コミュニケーションを丁寧にとって、双方の言い分を聞いて、双方にとって合意できる現状認識を共有し(その時に、本筋と関係しない事実については食い違いがあっても無視する)、双方にとって合意できる打ち手を共有すれば、解決できる。

これを短絡的に、片方がシェルターの建設を始めていて、もう片方が止めようとしている、みたいな対立だと認識してしまうと目も当てられない。もちろん実際にはそういうこともあり得るので、今起きていることが、コミュニケーションミスなのか、本当に何かしらの競合が発生しているのかをきちんと見分けることが極めて大事になってくる。

感覚的に、現場で起きている対立の大半は、実はコミュニケーションミスに起因したり、双方が持っている情報をきちんと丁寧に出せば、意外と解決策は単純だったりすることは多い。ただ、国内避難民キャンプというタフな環境下にいると、相手を気遣う余裕がなくなってくるので、情報共有を丁寧にするということは結構難しい。あとは人道支援の分野では多くの団体が活動しているので、団体間のプロジェクトの取り合いという側面もあるから、弱みを見せないということも当然意識してくる(団体内での自分の位置づけを守るという意味でも、そういう意識が出てくる)。そうすると余計、事実を素直に相手方に共有するということにすごく警戒感を抱くし、変なメールが飛んで来たら、まずは自分の組織を守ることに意識が行くので、自動的に、相手を責めるような格好になりやすい。

なのでタフな環境、修羅場な環境になればなるほど、まずは事実を見極めて、丁寧に確認していくことが大事になってくる。逆に、何かの問題があっても、単なるコミュニケーションミスじゃないのか?とか、コミュニケーションをきちんととって考えていけばきっとナイスな解決策が見つかるだろう、というある種楽観的な見方で取り組むと、こういった対立における問題解決がしやすくなると思う。