チャドで働く国連機関契約職員の日記

チャドの田舎で国連機関の期間契約職員として働くことになった日本人の日記です。ブログでの記述は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません

アトリエ ~ 準備編(2)

人道支援に関するデータについて、アトリエ(英語・日本語で言うところのワークショップ)を開催することになった。前回の記事はこちら

shigeomisato.hatenablog.com

 

正確なデータをとる方法について関係者を集めて考えるために、アトリエを開催することが決定した木曜日の夜、僕はそれまでの議論と、その決定に疲れ果てていた。その日はまっすぐ帰宅し、金曜日から作業を開始。アトリエ開催まで残り6営業日。

前回記載した通り、準備作業としては、以下のようなことを行う必要がある。

・企画書のドラフト

・企画書について、上司の承認

・出席者へのアポ取り、出席およびプレゼンの承諾

・遠方からの参加者のロジ手配

・場所確保

・当日の飲食の確保

・招待状の作成と配布

ということで、まずは企画書から。ちなみに企画書はTDR(Terms de Référence)と呼ばれる。英語だとTerms of Reference(TOR)。TDRもTORも、ここでは企画書と書いているけれども、実際にはもっと幅広い意味でつかわれる。たとえば、今回のようなアトリエの企画書もTDR。出張計画書もTDR。新規採用者の職務内容を記載した書類(ジョブデスクリプション)もTDRTDRは企画書兼稟議書としても使われて、これをベースに予算を含めた承認が行われることも多い。

当地に着任して1か月だけれど、やたらと開催されるアトリエや、やたらと出回るTDRのおかげで、どういうことを書けばいいのかはなんとなくわかっていた。そのおかげで、他の仕事の合間を縫いながら、金曜日と土曜日の2日間でTDRを書き上げて、事務所長と内部の関係者にドラフトを提出。ただ、企画が立ち上がった時の会議の雰囲気をそのままTDRに盛り込むと、国連機関Bのデータは使えない、というリンチに近い状態になってしまう。人道支援機関の会議でそういうことはあってはならないので、今回の目的を、データを作るいろいろな方法とその限界を、データの利用者に理解をしてもらったうえで、問題点を共有し、可能な範囲内で次のステップを考える、という風に書き換えた。こうすることで、当日うまくハンドリングできれば、無意味な批判は避けられるし、関係者がとりあえず思い付きで言うであろう不満や愚痴も、解決が必要な問題点の列挙として意味が出てくるはず、と目論む。結果的にこのTDRに対しては大きなコメントは無し。

 

月曜日

TDRをもとに、プレゼン&出席をしてもらう方・組織への打診。本当はTDRのドラフト段階からこれをすべきなのだけれど、打診をするにもTDRが必要だったりするし、週末でもあったので、後回しにしていた。ちなみに月曜日は、また別のアトリエがあってそちらにも出席をしないといけなかったので、プレゼンをしてもらう方々や組織への打診をしただけで終了。

 

火曜日

プレゼンをしてもらう方々や組織への打診の続き。今回の内容的に、特にプレゼンターは、「お前のところのデータは使えない」という批判を、関係者が大勢いる前で食らう可能性がある。ということで警戒される可能性や、プレゼンが変にディフェンシブなものになると困る。したがって何度も繰り返し、電話で趣旨を、できる限り丁寧に伝える。その結果、プレゼンターサイドからの基本的な了解を得ることには成功。

なお、プレゼンターのうち一人は政府機関の統計部門の方で、我が組織の同僚にコンタクトを頼んでいるけれども、うまくいかない模様だが、これはもう待つしかない。

また当日の来賓として、事務所のある県の県知事と、所掌している県の役人を派遣してもらうことになっているので、それら県知事への招待状をドラフト。所長に確認依頼を送って、この日は終了。

 

水曜日

所長からこのアトリエについての準備状況と見通しについての確認が入る。プレゼンターの一人とまだコンタクトが取れていない、というと「時間がないぞ、急げ」とのこと。いや、時間がないのはもともと知ってたでしょうが、と思いつつ、同じ事務所内で偶然、プレゼンターをやってくれそうな部局の部長の知り合いがいたので、そちら経由でもコンタクトをとってみる。

また、前日にドラフトを送った、当日の来賓向けの招待状を確認してもらい、署名をもらって、招待状は完成。あとは、これをどう届けるかが問題になる。事務所のある県知事のオフィスは、事務所から車で10分の所にあるから問題なし。残りの2県については、車で行こうと思うと片道2~3時間はかかるので、招待状を届けるためだけに行くほど、残念ながら暇ではない。かといって、速達はもとより、郵便がそもそも機能していない田舎なので、基本的には、直接届けるしかない。どうするか。

ラッキーなことに、この2県のうち、1県の県知事は、我が事務所の近くで行われているアトリエに来賓として参加していることが判明し、直接そこに持ち込んで、知事に手渡しをすることに成功。残りの1県の県知事については、その県で活動をしているNGOの方が同じアトリエに出席していたので、そのNGOの方に招待状を託して、翌日に、県知事に渡してもらうように依頼して完了。このアトリエがなければ、招待状2通を県知事に渡すことはおそらく不可能だったと思う。アトリエが多いのも悪いことばかりではない。

 

木曜日

出席確認が取れていなかった政府統計機関の方が出席可能であることが判明。当日はオンラインでも配信をすることにしていたので、オンラインでのプレゼンを希望するか、当地に来てプレゼンをするかを打診。こちらに来るとなると、往復の国連機の確保、ゲストハウスの確保、日当の支払い、等々実際のコストもそうだけれどそれ以上にアレンジの手間が発生するので、どうにか、オンラインでの配信を選択してもらいたいと、アッラーに祈りをささげる。しかしながら残念ながら、こちらに来てプレゼンをするという選択肢を選ばれる。しょうがないので、フライト、ゲストハウスの手配を始める。

また当日のプレゼンターが確定したので、プログラムも確定。ということで、必須出席者以外の関係者へのTDRの一斉配布を開始。と思ったら、上司やら我が組織の関係者から、誰それにもプレゼンしてもらうべし、という指示が下り、プログラムの変更とそのプレゼンターへの依頼を行う。そういう突込みは、TDRのドラフトを送った週末にやってくれよ、、、という愚痴はぐっとこらえ、彼らも今まで気づかなかったんだからしょうがないじゃないか、と気を取り直して粛々と作業を進める。ここでようやく、出席人数もある程度読めてきたので、当日の飲食のアレンジを事務所内の担当者に依頼。

夕方、アトリエ当日にフライトで飛んでくる政府統計機関関係者の予約が取れていないことが判明。予約を入れていたにもかかわらずフライトがアレンジできていないというのは、予約を入れたこちら側の不手際、予約を受け付けた側の不手際の両方がありえて、さらにそれがどちらもよく起こるのがこの国の人道支援機関の実態。今回は、予約を入れたこちら側の不手際らしい。月曜日のフライトに乗せるには、木曜日中に予約を確定させないといけない。急ぎ、再度予約を入れる手続きをしようとする者の、担当者は、もう間に合わない、という。上司に聞くと、まだ間に合うはずだから、どうにかしろ、と言われる。結局、別の担当者と話をして、どうにか予約を手配することに成功。

 

金曜日

アトリエ開始前の最終営業日。当日の場所とネットが入るかどうかを確認。月曜日のフライトの確認も取れた。また、我が組織からもプレゼンをするので、プレゼンをするのは僕ではないのだけれども、アトリエの目的や、我が組織として取りたいポジションを理解しているのは僕なので、プレゼンの作成を開始。

来賓として依頼している県知事のところに、明日はよろしくお願いします、とあいさつに行く。県知事には開会のあいさつをしてもらうことになっていたのだけれど、それを説明したところ、あいさつ文のドラフトを持ってきてほしいと逆に依頼される。事務所に戻って、スピーチ原稿をドラフトして、上司にメールでレビューを依頼。

 

土曜日、日曜日

スピーチ原稿のレビュー結果を上司から受け取って、県知事のところに持参。帰宅後、金曜日に引き続いてプレゼンの作成と組織内への共有、説明を行う。プレゼンの作成が遅れたせいで、直前まで上司や他の部署からのコメントが多く入ったものの、日曜日夕方には完了。(なおこの土曜日は土曜日で、別のトラブルが発生して対応に追われていた。その模様はこちら

これで、一応準備は完了したことになる。あとは、当日を迎えるのみだが、さて、どうなるか。

次回に続く。

shigeomisato.hatenablog.com