チャドで働く国連機関契約職員の日記

チャドの田舎で国連機関の期間契約職員として働くことになった日本人の日記です。ブログでの記述は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません

自身の評価を高める機会としての現場視察の受け入れとやりがいについて

国連機関の現場で働いていると、本部や他の組織、加盟国などから現地視察をしたいという要望を受けることがよくある。目的は大きく3つくらいで、(1)自分たちの出したお金がどう使われているのか、(2)事前に計画した活動が予定通り行われているか、(3)今後の計画を作るために現場の状況を知りたいとか、というのに集約される。

それに対して現場で受け入れる側も、旅行代理店ではないので、たまにやってくるこうした人々に対して、日ごろは伝えられないことを伝える。要は、お金が必要だということを、現場の具体的な様子とそこでの満たされていないニーズをうまく組み合わせて、アピールする。

視察にやってくる人の組織や組織内でのランク、自組織にとっての重要性によって、対応は大きく変わるのだけれど、先日、かなり重要な組織のトップが複数やってきて、それを当地の人道支援機関複数が共同で受け入れるという視察があったので、その時のことを書きたいと思う。ちなみに、僕は受け入れる側だけれど、送り出す側でもそれなりに大変な準備があるはずなので、あくまでこれは、受け入れる側、現場側での視点と作業だということを念頭に置いていただければと思う。

 

0.視察者のプロフィール確認

事前に共有される視察者の情報がどれだけ充実しているかは、視察ごとに違う。けれども、それなりに重要な人物の受け入れであれば、共有される情報に加えて自身でも情報を集める。視察者の組織の戦略や活動計画、視察者のポジション、プロフィール、成果・実績、関連記事、最近参加した会議やそこでの成果文書、等々。食事を出すのであれば、可能な限り、食事のアレルギーや好みについても確認する(特に視察者が重鎮になってくると、必然的に年齢も高めになるので、快適に過ごしてもらうためには極めて重要)。

 

1.視察先の検討
視察を送り出す側や本部などからは現場に対して、視察の目的、参加者のリストともに、何時から何時まで現地に滞在するので、その間に、視察の目的を達成できるようにプログラムを組むように、指示が来る。逆に言えば、送り出す側から与えられるのは、当地に入る時間と出る時間で、その間の視察プログラムは、現場サイドで調整をしていく。

今回は複数機関共同での受け入れなので、視察プログラムも、複数機関共同で作っていく。前述の通り、受け入れる側としてはアピールをしたいと思っている。視察をする場所とプログラムで、どういうメッセージが伝えられるかは決まってしまうので、どこを訪問して、誰がそれを調整するのか、というのは大きな議論の的になる。同時に、あまりにも訪問先を主張しすぎると、じゃあ、その場所の視察については調整よろしく、と投げられる。こういった現場視察は通常業務とは完全別枠でやらないといけない仕事だし、後述の通り、単なる担当者の出張とは異なって準備することも多いので、面倒は避けたい。そういった思惑が飛び交う中で、調整が進められる。

 

2.スケジュールの検討
どこを訪問するのかを決めると、じゃあ、それぞれの視察先で誰が調整をしていくのか、どれくらいの時間をかけるのか、視察先が複数ある場合は、その間の移動時間を含めて、細かく決めていくをしていく。訪問する人が偉ければえらいほど、訪問する場所もやることも増える(なぜなら、いろんな機関が、うちのところにも来てくれ、とアピールするから)ので、チャドの田舎どころか、途上国一般ではかなり厳しい、分単位のスケジューリングをしていくことになる。僕の働いているところも含めて一般的に、人道支援機関がいる現場は治安が不安定だから、必ずしも最短スケジュールで移動できるのがいいわけではなくて、セキュリティ面でも問題ない経路をたどっていく必要がある。こういう諸々を考慮した後、訪問先が時間軸とともに設定される。

 

3.現場側の調整
視察先とスケジュールが決まったら、その視察先それぞれで、誰・どの組織に受け入れ時の説明やら通訳やらをしてもらう人を調整する。現場では特に、援助対象となっている人々との直接の対話が求められることがあるので、誰をその場に出すのか、どうやって選んでいくのか、どういった資料を何部準備しておくのか、といったことも現場側で決めていく。細かい話だけれど、訪問先それぞれで、水や食事がいくつ必要で、そのために予算がいくら必要で、、、みたいなことも調整していく。(当地では特に日中の気温が40度を超えるので、視察に来る人側も、受け入れる側も、水をちゃんと補給しないと普通に危ない)
なお後述の通り、スケジュールは直前まで&当日も変更されるので、プランBを用意しておいて、それにも対応できるように事前に調整をしておく。

 

4.資料の作成
現場視察と言っても、現場のオフィスでの打ち合わせやらプレゼンテーションが入ることが多いので、その場で必要になる資料も準備する。これも、各機関がそれぞれを行うのか、代表機関が行うのか。代表機関が行うとして、それは誰がいつまでにドラフトして、事前に共有して各機関がコメントするのか、ということも決めていく。想像に難くない通り、一応デッドラインを決めても守られることは中々ない。今回は、当初は視察前日の午前中までに代表機関が関連機関にドラフトを共有するといっていたけれど、実際に共有されたのは前日の23時だった。

 

5.しゃべることの頭づくり&承認
当日、現場視察の中で、自分の機関として、何をアピールしたいのか、というのを準備しておく。これは自分の組織としてのメッセージになるので、現場視察に実際に同行する担当者が勝手に考えるだけではだめで、ある程度書面に落として、自組織の責任者に合意をとっておく必要がある。視察する人が、視察が終わった後に何を覚えていて、レポートにどうやって書いてもらえるのか、というのが現場サイドから見た視察の成果になるので、そういったことを想定して、アピールポイントとそのための根拠を、資料and/or口頭で説明できるようにしておく。これを、打ち合わせの場のみならず、移動中の車、現場視察の途中、食事中などで常に意識して、伝えるようにしておく。

 

6.スケジュールの承認
現場レベルでのスケジュールはあくまでドラフトで、本部やら視察送り出し元組織やら各所にスケジュールの承認依頼を行う。視察する人のランクが高くなればなるほど、承認までの時間がかかるし、口出しをしたい人が増えるし、ひっくり返ることも増える。

今回は結局、現場視察が入るという話が来たのが視察の2週間前だったけれど、最終的に当日のスケジュールが承認されたのは、前日の夜23時だった。

 

7.現場視察当日
当日は、基本的には承認されたスケジュールの通りに行くように、当日発生する細かいアクシデントに対応しながら、粛々と進めていく。特に、視察者ができるだけスムーズかつ快適に動けるように(不快な状態が続くと、実質面ではよくても、全体として印象が悪くなってしまう)、できることは何でもする。視察者と同じ車に乗ったならば、アピールしたいポイントを随時伝えるのは当然として、相手が知りたそうなことをその場で情報共有したり、先に車を降りて扉を開けたり、ペットボトルの水を差しだしたり、キャップが開けずらそうだったらあけてあげたり、、、というようなことをしていく。

視察が終わった後は、調整のために協力してくれた組織やメンバーにお礼を言いつつ、自組織の上層部にどういう感じだったかを共有する。

 

以上、つらつらと書いてみたけれども、特別なことはあまりない。けれども、これを日常業務だけでも結構忙しい状態で、各組織間の利害が微妙に対立する中で、自組織としてアピールしたいことをうまく伝えつつ(部分最適)、現場視察全体がうまくいくように(全体最適)、ふるまっていくというのは中々大変。でも、こういう作業を通じて、他の組織の担当者とつながりが深まったり(通常業務で他の組織と夜中まで仕事をすることは中々ない)、誰が使えるやつで誰が口だけなのかが現場レベルで分かるようになる。逆に言うと、面倒な作業が多いので、そうしたことを率先して引き受けていくと、こいつは使える、信頼できる、という自身および自組織の評価を現場の組織間で上げることもできる(もちろん、うまくいかなければ逆のことが起きる)。

また自組織内においても、現場視察が重要であればあればあるほど、上層部・本部も巻き込んだコミュニケーションになるので、そこでの動きや成果は、自組織内での自身の評価にも大きく影響する。

現場にいると、現場視察の受け入れというのは面倒かつ、避けられない(特に年の後半になると、翌年のプランニングを目的に現場視察が増える傾向にある)。しかし、こういった事前調整とか、細かいおもてなしの部分、またそれを実際に汗をかいて動いていくという所作は、日本人は比較的得意ではないかと思う。あくまで、現場視察全体がうまくいくことを最優先に考えて動くべきなのだけれども、それはそれとして、自身の評価を高めるいい機会でもあるととらえて、面倒な作業も率先して、プロアクティブに動いていくと、結果的にはいいことが多いと思う。ちなみに、僕の個人的な感情としては、視察がうまく進んで、視察者が喜んでくれるのを見るのは、それだけでも単純にうれしいし、それで十分報われると感じている。